Cooperateとカトリック

 映画『スリービルボード』がまあ良かったので語っておく。自分の娘をレイプ殺害した犯人が捕まらないことに憤った母ちゃんが地元警察の署長の名前をでかい看板に張り出すところから物語は始まる。さて、政治的なテーマが満載の映画なのだが、笑わずにはいられない場面がたくさんあって、とにかく最後まで人間臭い映画だった。まあ、内容も映像も文句なく面白いので是非一度見てもらうとし、今回は印象に残った英語について少し紹介したい。

 

 さて物語の序盤で、レイプ殺人の犯人を捕まえるために無茶をする肝っ玉かあちゃんを見兼ねて、息子が町の神父さん(ちなみに牧師はプロテスタント。。。だったかと)を連れて来る。ここでこのかあちゃんが神父のありがたーい助言に対して、嫌味をめいいっぱい詰め込んで「cooperate」という言葉をお返しする。 

 ここで話は少し脱線して高校の世界史に。高校の時に暗記させられた中世の終焉の手前の出来事として「グーテンベルク活版印刷術(15C)」と「ダンテの『神曲』→トスカナ語」(トスカナ語はイタリアのある地域の地元の言葉)の2つがあったのを今でもよく覚えている。これは大学で再度説明されたこともあり、加えて自分で本を読んで理解を深められたから今説明できている次第だ。この2つがどうして重要なのかというと、この2つの歴史的な出来事は、これまで「聖書にラテン語で書かれた知識や知恵を独占していたカトリック教会の支配体制を崩す」きっかけとなったからである。

 

 この話が、どうcooperateに繋がるのかというのが味噌である。この肝っ玉母ちゃんは「ギャングを成敗するために作られた、当時の共謀罪」のようなものを引き合いに出して、「組織ぐるみで幼い男児にイタズラをしているような人間に説教されたくないね」と諭しに来た神父を逆に非難する。「お前が直接加担していなくとも、組織の人間が性的虐待をしてたのならお前も幼い男児性的虐待をしたのと同じだ」と語気を強めて説明するのである。ここでこの母ちゃんは共犯という重い言葉ではなく、逆に「一緒に作業する」くらいの意味しかない「cooperate」を使うことによってよりアイロニックになっているのである。(ちなみに共犯という英単語は僕は知りません)

 過去の記事では『スポットライト』という、ボストン・グローブ紙がカトリックが組織的に教職者が幼い男児性的虐待を行うことを容認してきた事実を暴いたという実際の出来事を元に作られた社会派の映画についても触れたと思う。今回『スリービルボード』を観賞して、「カトリックの権威が完全に地に着いた」ことを感じたので整理するために書いてみた。要するに、カトリック権威失墜のターニングポイント、終着のまとめとして「グーテンベルク活版印刷術」→「ダンテの『神曲』、トスカナ語」→「スリービルボード」という具合だ。

 映画の主題ではない点について語ったが、この胆っ玉母ちゃんの立ち振舞いや言動からとにかく目が離せないので、是非一度見て欲しい。映画好きの僕が勧める良品です。